宅地転用が困難な市街地山林は純山林として評価できる
Q
私が父から相続した自宅の裏山は傾斜度が40度前後の急斜面で、急傾斜地崩壊危険区域に指定されています。路線価は「270D」で査定されているため、相続税はかなりの高額になります。その場合でも路線価で申告しなければならないのでしょうか?
A
宅地の価額より宅地造成費のほうが高く、宅地への転用が見込めな急斜面地等のように宅地比準方式の適用に合理性が認められない場合は、近隣の純山林の価額で評価できます。その評価額は評価通達で評価した場合の2/100位まで下がることがあります。
比準方式にある市街地山林とは、市街化区域内にある山林をいいます。従来、近隣宅地の価額を基に宅地造成費に相当する額を控除して求めていましたが、かえって造成費の方が多額になるため、開発してもマイナスになるケースがあります。市街地山林には、宅地化にあたっては多額の造成費を要するため採算が合わないものや、宅地化が見込めない急傾斜地等があります。
宅地比準方式を適用すること自体に合理性が認められない場合は、評価の明確化等の観点から、純山林の価額に比準して評価することとされています。横浜市の場合は地域によって異なりますが、純山林は233.9円/㎡(注)と極めて低い価額であり、評価通達の2/100くらいまで下がることがあります。
(注)厚木市の山林の価値を基に査定しており、純山林の価額は市町村によって異なります。
準山林か否かの判断基準と開発法
Q
私が父から相続した市街化区域の土地は、傾斜度が40度の急傾斜地崩壊危険区域にあり、開発にはかなりの造成費が必要です。税理士の話では、純山林として評価した場合は、相続税額がかなり減少するとのことです。しかし、否認された場合は、多額の追徴税がとられないか心配です。純山林か否かの判断基準と、開発法について説明してください。
A
評価通達では、市街地山林を宅地比準として求めた価額から国税庁が定めた造成費を差し引いた価額が近隣の純山林の価額に比準して評価した価値を下回る場合は純山林として評価してよいと規定されています。
横浜市では地域によって異なりますが、純山林として評価した場合は233.9円/㎡でよいことになり、納税者にとっては極めて有利になります。国税庁方式により求めた価格には、水道・ガス・下水道等の供給処理施設費に造成費が含まれていないため、ハードルはかなり高くなります。筆者が以前に純山林として申告した場合も、国税調査官から広大地通達を適用したらどうかと言われたことがありました。税理士が純山林として申告して否認された場合は、延滞利息等の費用がかなりかかるため、不動産鑑定士の力が必要となるでしょう。(現在は広大地の評価はない)
開発法とは、宅地の販売総額を価格時点に割り戻した額から、土地の造成費および発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を価格時点に割り戻した額を控除して求める方法です。
開発法は、実際の開発を前提とした投資価格を検討して市街地山林を開発した場合に、採点が合うかどうかによって判断します。開発法の価格がマイナスになっている場合は、採点価格がマイナスであるため、市街地山林を開発しても採算が合わないことになり、その場合は純山林として評価します。
評価通達49では、「整地土盛り費用のみ」を造成費としていますが、開発業者がその土地を開発する場合は、残土搬出、汚水排水工、ガス工事、測量等の費用に間接工事費等を加算して意思決定をします。国税庁方式による造成費には、水道・ガス・下水道等の供給処理施設の工事費用は含まれていません。開発法では、宅地としてすぐに利用できる場合の価額を求めているため、より理論的であるといえます。
かつてバブル期には、市街地山林に開発業者が押しかけたケースもありましたが、最近は、傾斜度が30度前後の市街地山林は採算が合わないため、多くが山林のままで残っています。純山林として認められない面積が比較的広い市街地山林の相続時の時価を求める場合は、不動産鑑定士の力が必要となります。造成後の宅地分譲収入から造成費等を控除して投資採算を分析し、マイナスになれば純山林としての評価ができます。
なお、相続税申告の際には、純山林として評価証明が必要です。
純山林として評価するとどの位評価額が下がるのか。
Q
不動産鑑定士として市街化区域の土地を純山林として評価した最近の実例を上げて下さい。
A
(1)町田市大蔵町事例
地積 1,437.31㎡が評価額442,691円
単価 308円/㎡
(2)横浜市南区中里3丁目
地積 1,075㎡が評価額58,695円
単価 273円/㎡
(3)藤沢市川名
地積 3,219㎡が評価額753,246円
単価 234円/㎡